PICK UP ITEM vol.2
バイヤーズセレクト(ダルダシュティーが描いた「シルクの奇跡」)
我らがバイヤー、三代目亀川雅史がオススメする絨毯を絨毯販売歴40年の佐藤氏とご紹介する人気のコーナー。
バイヤー自らが買い付けた一言推しコメントも必見! 是非、新たな1枚を手に入れる参考にしてください。是非、Youtube動画でもご覧くださいませ。
今回は、イスファハンの伝説、ダルダシュティーが描いた「シルクの奇跡」、その芸術性と歴史的背景を紐解くコラムをお届けします。
それではいってみましょう!
イスファハンの伝説、ダルダシュティーが描いた「シルクの奇跡」
ペルシャ絨毯の五大産地の中でも、最高峰の格付けを誇るイスファハン。その歴史ある産地において、絨毯販売歴40年の佐藤氏が「別格」とまで称賛するのが、今は亡き巨匠ダルダシュティー(Dardashti)工房の作品です。 3年前に惜しまれつつこの世を去った3代目ダルダシュティー氏は、メトロポリタン美術館にもその作品が永久保存されるほどの、世界的な名匠でした。
物理の法則を超えた「究極のフラット」
通常、シルクとウールを混ぜて織る「パートシルク」の絨毯は、糸の性質の違いから段差が生じるのが当たり前とされています。シルクはコシが弱いため、織り機で叩き込むとペタッと潰れてしまい、ウールの部分だけが浮き上がって見えるのです。 しかし、ダルダシュティーの作品は驚くほどにフラット。どこがシルクでどこがウールか、触っても判別がつかないほど均一に打ち込まれています。これは「叩き込み」の圧倒的な技術の賜物であり、他のトップ工房ですら真似できない、まさに「機械のような正確さ」と称される神業です。
失われた技法の復刻と、独創的な色彩
ダルダシュティー氏は、かつて存在しながらも作り方が分からなくなっていた「レシ(Lesh)」という古のデザインを見事に復元させました。さらに特筆すべきは、その色彩感覚です。従来のイスファハン絨毯にはなかった深いコバルトブルーやエメラルドグリーンを独自に開発し、新たな息吹を吹き込みました。その発色は決して派手すぎず、渋みと気品を兼ね備えた、見る者の心を落ち着かせる美しさを持っています。
織り込まれた「遊び心」と「生命の輝き」
彼の作品を眺めていると、鳥や動物たちの表情が一つひとつ異なることに気づかされます。漫画チックとも言えるその愛らしい表情は、多くの追随者が真似をしましたが、本家ダルダシュティーが描く生き生きとした表情には誰も及びません。 それは、単なる図案を超えた「デザイナーとしての魂」が細部にまで宿っている証でもあります。メダリオンという伝統に縛られず、一方向のデザイン(ミフラブなど)を得意としたのも、彼の自由な発想の表れと言えるでしょう。
最後に 二度と生まれない「最後の一品」
「絨毯としての価値は、どんな使用にも耐えうる頑丈さにある」と佐藤氏は語ります。ダルダシュティーの絨毯は、その繊細な美しさとは裏腹に、極めて強固に織り上げられた一生モノの芸術品です。
氏が亡き今、この工房から新しい作品が世に出ることはもうありません。 もし、どこかの展示会でこの「フラットな手触り」と「愛らしい鳥の表情」に出会うことがあれば、それは時を超えて巨匠と対話する、二度とない貴重な機会になるはずです。その技術と情熱を、ぜひその手で確かめてみてください。